【学長からのメッセージ2021.3】「母さん、あなたより先に死ぬんだよ!」~子育ての原点って何?~
星美学園短期大学 学長 阿部健一
綾戸智恵さんというジャズ・シンガーをご存じでしょうか?
だいぶ以前のことになりますが、綾戸さんが、あるテレビ番組の中で、「息子が朝起きられないときは、『母さん、あなたより先に死ぬんだよ』と言うと、はっとして、ぱっと起きてきますよ」という意味のことをおっしゃっていました。私の記憶では、息子さんは、当時小学校4年生くらいではなかったかと思います。なぜ、私がこの言葉を印象深く覚えているかというと、「この時代に、このような言葉を子どもにぶつけられる大人がいた」と驚いたからです。
子育ての目標とは、何でしょう?それは、親がいなくても生きていける人間に育てることでしょう。
この目標は、戦前の親たちにとっては切実でした。人生50年という時代で、子どもが成人するまで生きていられるかわからなかったからです。この時代であれば、「母さん、あなたより先に死ぬんだよ」という言葉は、ごく自然であったと思います。ところが、今は、長生きの時代です。多くの親は、いつまでも子どもの面倒をみてあげられると思い込んでいます。この時代の中で、綾戸さんは、「母さん、あなたより先に死ぬんだよ」という言葉を子どもにぶつけることができたのです。
今の時代の私たちは、子どもを自立させることに、どれほど心を砕いているでしょうか。自分で気づけるように、自分で考えられるように、自分で判断できるように、自分で決断できるように、自分で行動できるようにと、そこに心を砕きながら子育てをしているでしょうか。
あるとき、電車の中で、若い女性とお母さんの会話が聞こえてきました。
母「あなたはどうするの?」
娘「お母さん決めてよ。お母さん、私のこと決めるの、好きでしょ。」
綾戸智恵さんの言葉は、一見、今の時代にそぐわないようにみえますが、実は、そこには、本当の「親の愛」が込められているように思うのです。
星美学園短期大学
学長からのメッセージ