02_学長メッセージ

2021年7月28日 (水)

【学長からのメッセージ2021.7】自分を人と比較しない生き方

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星美学園短期大学 学長 阿部健一


 私は、40歳過ぎまで、自分を、人と比較しながら生きてきました。自分が人より恵まれていれば「幸せ」、自分が人より恵まれていなければ「不幸せ」という具合でした。今考えると、その幸せは、つまらない優越感に過ぎず、その不幸せは、つまらない妬みや嫉妬心にすぎなかったわけです。

これは、なにかおかしい。自分の幸せや不幸が、他人との比較で決まるなんて。何かが間違っている。40歳過ぎて、やっとそのことに気づいたのでした。たった一回しかない人生なのに、こんな自分のままで死んでいくと思うと、ぞっとするような恐怖を感じるようになったのです。

聖書の中に、イエスが語った、ブドウ園で働く人の話があります。

ブドウ園の主人が、ブドウの刈り入れのために、朝早く町の広場に来て働き手を探して雇います。夕方、主人が広場に来てみると、まだ働き口の無い人たちがいたのでその人も雇います。

仕事が終わって、賃金を払うとき、主人は、夕方から働いた人にも、朝から働いていた人と同じ賃金を払いました。

すると、朝から働いていた人たちが、それはずるいと主人に文句を言い始めるのです。

なぜ、文句を言うのでしょう。

それは、自分と人とを比較する心があるからです。人が自分よりいい目を見るのが許せないし、そのようなことをする主人も許せないのです。

この朝から働いて文句言う人は、誰でしょう。これこそ、40歳過ぎまでの私です。 

よくよく考えてみれば、夕方から働いた人が、朝から働いた自分と同じ賃金をもらったって、私にとって、本当はどうでもいいことなのです。

賃金を払うのは、私ではなく、ブドウ畑のご主人なのです。ご主人がそうしたいというのだから、それでいいのです。 

だいいち、私は、ちゃんと約束通りの賃金をもらえたではないですか。文句を言う筋合いはないのです。主人が、他の人にいくら払おうがどうでもいいこと。

「優しいご主人でよかったよね。遅く来たのに、同じように、一日分のお金をもらえたなんて」と、一緒に喜んだらいいのです。


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星美学園短期大学

学長からのメッセージ

2021年6月29日 (火)

【学長からのメッセージ2021.6】「手を引くこと」と「背を押すこと」

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星美学園短期大学 学長 阿部健一

今月の学長先生からのメッセージです。


99歳で亡くなった父の、最後の数年間は、いわゆる認知症でした。

認知症になると、外から入る情報が処理できなくなってしまうようです。

父は、自分の母親(私の祖母)と兄(私の伯父)が秋田県の実家で、今も生きていると思い込んでいました。いくら筋を通して説明しても、その思い込みを変えることは不可能でした。

あるとき、夜中に起き出して、雨戸を開け始めました。もう朝だというのです。外に注意を向けさせて、「ほら、暗いでしょ。まだ夜だよ」と言っても、父は不思議そうに空を見上げ、「おかしいなあ、朝なのになんで暗いんだ。まあ、こういうこともあるよな」と私の顔を見て、「心配しなくても大丈夫だから」と言うのでした。

外から入る情報が処理できなくなってしまったので、こちらの言い聞かせや説明によって父の行動を変えることが不可能になりました。しかたなく、父の体に触れて制止せざるを得ない場面が出てきました。

その際、手や腕を引っ張って制止しようとすると、抵抗したり、怒りを表したりします。しかし、後から肩に手を回して制止すると、ほとんど抵抗しないのです。

また、「だめ!」と、頭から否定する場合も、抵抗したり、怒りを表したりしますが、「〇〇しようか」と、その場から違う場面へ穏やかに誘うと、ほとんど抵抗しないのです。

1,2歳児に対しても、「いけません!」と手を引っ張って場面から引きはがすよりは、背中に手を回して「あぶないから〇〇しようか」とやさしく言葉かけする方が、格段に、言葉が子どもに入っていきます。

相手に対して上から目線で説教し、手や腕を引っ張って、無理矢理行動を変えさせようとするよりも、相手の思いをひとまず受け入れて、相手の背中をやさしく押して、相手を方向づける方が、よっぽど上手くいくようです。

これは、どんな人に対しても通じる、人生の真理ではないか・・・、そんなことを考えさせられました。


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学長からのメッセージ

2021年5月28日 (金)

【学長からのメッセージ2021.5】10歳の大人:リトル・トリー

Dsc_0210_1_6 星美学園短期大学 学長 阿部健一


 私の好きな本の1つに、「リトル・トリー」(フォレスト・カーター著 めるくまーる)があります。

 リトル・トリーは、インディアン(チェロキー族)の子どもで、父、母を続けて失い、5歳の時から祖父母と暮らすことになりました。

 ある日、リトル・トリーは、祖父と街へ出かけます。その帰り道、リトル・トリーは、元気のない子牛に心惹かれますが、そこを言葉巧みにつけ込まれ、50セントでその子牛を買うことになります。子牛が自分のものになって、リトル・トリーの心は躍り、自慢げに祖父に見せましたが、祖父は、うれしそうな顔はしませんでした。

 その子牛は、家にたどり着く前に、道に横たわり、死んでしまいました。病気だったのです。祖父は、子牛の皮を剥ぎ、リトル・トリーは、それを背負いながら、打ちひしがれて、とぼとぼと家路を辿っていきました。

 夕食の時、祖父は、リトル・トリーを見つめて言います。

 「なあ、リトル・トリー。おまえの好きなようにやらせてみせる、それしかおまえに教える方法はねえ。もしも子牛を買うのをわしがやめさせてたら、おまえはいつまでもそのことをくやしがったはずじゃ。逆に、買えとすすめてたら、子牛が死んだのをわしのせいにしたじゃろう。おまえは自分でさとっていくしかないんじゃよ。」

 リトル・トリーは、祖父から生きる知恵を学び、祖母から読み書き算数を学びました。リトル・トリーが10歳の時、祖父と祖母が死にました。しかし、その時、すでに、リトル・トリーは、一人で生きていく力を身につけていたのです。

 私たちも、心配に耐えながら子どもの判断を見守る、そういう強さを持つ必要があるのではないでしょうか。


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学長からのメッセージ

2021年4月29日 (木)

【学長からのメッセージ2021.4】繋がり合うこと

Dsc_0210_1_5星美学園短期大学 学長 阿部健一


 私が育った地域では、どこに誰がどんな風に暮らしているか、誰にどんなことがおこったか・・・そんなことをお互いに、ごく普通に知りながら暮らしていました。プライバシーとか個人情報保護とかという言葉とは別世界で、「どこの誰々がどうした」というニュースは、当然のごとく共有されるのでした。煩わしくはありますが、お互いどうし強い「関心」を持ちつつ暮らしていた社会でした。

 「関心」は、「繋がり」を生み、「繋がり」は、「助け合い」を生みます。私の茶碗と箸が2軒先の家に置いてあり、大人たちは、自分の子どもだけでなく近所の子どもたちをまとめて遊びに連れて行き、私も、近所の小さい子をよく銭湯に連れて行きました。貸したり借りたり、あげたりもらったり、迷惑かけたりかけられたり、お節介されたりお節介したり・・・「遠くの親戚より、近くの他人」という言葉が、まだ確実に生きていた時代であり、そのような場所でした。このような地域社会の中で、きっとたくさんの人たちが救われていたのだと思います。

 今、都市部では、危機管理を優先して、「知らせない社会」、「立ち入らせない社会」になっています。これは、この時代の必然なのだろうと思います。しかし、いつの日か、人間どうしが「繋がる」社会に回帰していくであろうと思います。なぜなら、それこそが、人間が、根源的に求めている「自然な暮らし方」だと思うからです。


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学長からのメッセージ 

2021年3月13日 (土)

【学長からのメッセージ2021.3】「母さん、あなたより先に死ぬんだよ!」~子育ての原点って何?~

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星美学園短期大学 学長 阿部健一



 綾戸智恵さんというジャズ・シンガーをご存じでしょうか?

 だいぶ以前のことになりますが、綾戸さんが、あるテレビ番組の中で、「息子が朝起きられないときは、『母さん、あなたより先に死ぬんだよ』と言うと、はっとして、ぱっと起きてきますよ」という意味のことをおっしゃっていました。私の記憶では、息子さんは、当時小学校4年生くらいではなかったかと思います。なぜ、私がこの言葉を印象深く覚えているかというと、「この時代に、このような言葉を子どもにぶつけられる大人がいた」と驚いたからです。

 子育ての目標とは、何でしょう?それは、親がいなくても生きていける人間に育てることでしょう。

この目標は、戦前の親たちにとっては切実でした。人生50年という時代で、子どもが成人するまで生きていられるかわからなかったからです。この時代であれば、「母さん、あなたより先に死ぬんだよ」という言葉は、ごく自然であったと思います。ところが、今は、長生きの時代です。多くの親は、いつまでも子どもの面倒をみてあげられると思い込んでいます。この時代の中で、綾戸さんは、「母さん、あなたより先に死ぬんだよ」という言葉を子どもにぶつけることができたのです。

今の時代の私たちは、子どもを自立させることに、どれほど心を砕いているでしょうか。自分で気づけるように、自分で考えられるように、自分で判断できるように、自分で決断できるように、自分で行動できるようにと、そこに心を砕きながら子育てをしているでしょうか。

 あるとき、電車の中で、若い女性とお母さんの会話が聞こえてきました。

 母「あなたはどうするの?」

 娘「お母さん決めてよ。お母さん、私のこと決めるの、好きでしょ。」

 綾戸智恵さんの言葉は、一見、今の時代にそぐわないようにみえますが、実は、そこには、本当の「親の愛」が込められているように思うのです。


星美学園短期大学

学長からのメッセージ