図書館展示企画 2012年度 第3回
タイトル: 最初に出すものに、心を託す
-「巻頭歌」と「振出」 和歌の場合と茶道の場合-
期 間 : 2012年10月~12月
担 当 : 人間文化学科 教授、図書館長 草野 隆
和歌史の中で-勅撰和歌集の巻頭の歌-
勅撰集(天皇の命令で作った歌集)をはじめとする和歌集で、
巻頭歌(いちばん最初の歌)は、特別大切なものとされています。
それは、その歌がその歌集の編集方針や、追い求める歌風を
代表するからです。最初の歌が、平凡で、ちっとも面白い歌では
なかったら、誰でもがっかりしますね。
勅撰集などで、最初の歌は、春の歌と決まっています。立春の歌です。
『新古今和歌集』では次のような歌が選ばれています。
「 み吉野は山も霞て 白雪のふりにし里に春は来にけり 藤原良経 」
作者が、当時の「現代歌人」というのもポイント。この歌集は、古めかしい
歌ばかりではないぞ、という気概が感じられます。また、まだ花の咲いて
いない雪にとざされた吉野の、かすかな春の気配を描いているところも斬新です。
茶道-裏千家の茶箱点前の場合-
茶箱の点前は、裏千家の玄々斎(第十一代家元)が明治時代に
まとめました。雪・月・花、卯の花などいくとおりかがありますが、
いずれの場合も、お茶の道具一式を「茶箱」と呼ばれる小さな箱に
詰め込んで野点などの席におもむき、あとはお湯、つまり薬缶と
火(普通は鉄瓶と風炉)さえあれば何とかなる、というお手前です。
お茶(抹茶)はもちろん、茶筅も茶碗も、お菓子までも、その一式が、
持ち運び用に小さくまとまっています。
茶箱一式が持ち込まれ、道具が拡げられていよいよお茶を点てるとき、
最初にお客に出されるのが「振出」です。これには「お菓子」、つまり
金平糖や豆が入っているのです。お客が最初に手にするのが「振出」
というわけで、このちいさな壺に亭主はいろいろな心を託します。
夏だから涼しげにガラスで、とか。寒い季節だし、ほんのりと温かい
土の味の器がよさそうだとか。折々の行事にちなんでみようとか。
今回は、ガラスおよび備前、唐津、交趾など、各地の窯の振出を
いくつか並べてみました。今、出されたらうれしいのはどれですか?
唐津(佐賀)、備前(岡山)、丹波(兵庫)、仁清(京都)写し、
瀬戸(愛知)、織部(岐阜)、志野(岐阜)、
交趾(ベトナム ハノイのあたり)写し、スンコロク(タイ)
(順不同)