【学長からのメッセージ2021.6】「手を引くこと」と「背を押すこと」
星美学園短期大学 学長 阿部健一
今月の学長先生からのメッセージです。
99歳で亡くなった父の、最後の数年間は、いわゆる認知症でした。
認知症になると、外から入る情報が処理できなくなってしまうようです。
父は、自分の母親(私の祖母)と兄(私の伯父)が秋田県の実家で、今も生きていると思い込んでいました。いくら筋を通して説明しても、その思い込みを変えることは不可能でした。
あるとき、夜中に起き出して、雨戸を開け始めました。もう朝だというのです。外に注意を向けさせて、「ほら、暗いでしょ。まだ夜だよ」と言っても、父は不思議そうに空を見上げ、「おかしいなあ、朝なのになんで暗いんだ。まあ、こういうこともあるよな」と私の顔を見て、「心配しなくても大丈夫だから」と言うのでした。
外から入る情報が処理できなくなってしまったので、こちらの言い聞かせや説明によって父の行動を変えることが不可能になりました。しかたなく、父の体に触れて制止せざるを得ない場面が出てきました。
その際、手や腕を引っ張って制止しようとすると、抵抗したり、怒りを表したりします。しかし、後から肩に手を回して制止すると、ほとんど抵抗しないのです。
また、「だめ!」と、頭から否定する場合も、抵抗したり、怒りを表したりしますが、「〇〇しようか」と、その場から違う場面へ穏やかに誘うと、ほとんど抵抗しないのです。
1,2歳児に対しても、「いけません!」と手を引っ張って場面から引きはがすよりは、背中に手を回して「あぶないから〇〇しようか」とやさしく言葉かけする方が、格段に、言葉が子どもに入っていきます。
相手に対して上から目線で説教し、手や腕を引っ張って、無理矢理行動を変えさせようとするよりも、相手の思いをひとまず受け入れて、相手の背中をやさしく押して、相手を方向づける方が、よっぽど上手くいくようです。
これは、どんな人に対しても通じる、人生の真理ではないか・・・、そんなことを考えさせられました。
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