【学長からのメッセージ2022.7】「まあ、いいか」について(最強編)
星美学園短期大学
学長 阿部健一
「まあ、いいか」最強編・・・と言っても、あくまで私個人にとっての最強編であることをお断りしておきます。
私が小学校2年生の時、3年生のN君、5年生のM君と一緒にハゼ釣りに行きました。干潟につくと、まず、ハゼ釣りの餌となるゴカイを取ります。ゴカイというのは、ミミズを平たくして毛を生やしたような虫で、干潟に穴を掘って住んでいます。その穴を目当てに干潟を掘り返して、ゴカイをつかまえます。これは、遊びにもならない単純作業で、ハゼを釣るための苦行です。
ふと、手を休めて周りを見ると、N君は、全然ゴカイを取っていないのです。「N君も、ゴカイとってよ」と言っても、まったく無視です。私は、だんだん腹が立ってきました。そして、M君に言いました。
「N君は、全然ゴカイを取らないんだから、釣りさせないようにしようよ」
その時、M君だって思いは一緒と、完全に思っていました。
M君は、明るい声で、私の目を見て言いました。
「いいじゃない。みんなでしようよ」
思いがけない言葉に、返す言葉を失いました。そして、自分の言ったことが、なんだか無性に無性に恥ずかしくなりました。この時受けたショックは、その後の私の生き方にも影響したように思います。そういう意味で、M君の「まあ、いいか」は、私にとっては、最強なのです。
私が40代のころの出来事です。夜遅い電車の吊革につかまっていました。と、突然、隣の若い女性が首を下に傾け、嘔吐したのです。吐瀉物が、真正面に座っていた、身なりの良い、60代と思われる男性の膝の上に飛び散りました。
男性は、ハンカチを取り出して、膝の上の吐瀉物を丁寧に拭い始めました。その後の場面は、まったく記憶に残っていないのですが、その男性が、少しも動じることなく、静かに吐瀉物を拭っている姿だけが、なぜか強烈な印象として残っているのです。
多分、自分もそうありたいと思ったのかもしれません。無理だとは思いますが・・・。私にとっては、その紳士の行動は、今日までの、最強の「まあ、いいか」になりました。
(次回、8月号は、お休みです。)
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