星美学園短期大学 学長 阿部健一
今回は、中島みゆきさんの作品の中で、私が一番好きな「誕生」を取り上げたいと思います。この歌から、私は、次のようなメッセージを読み取ります。(今回も、私の、自分勝手な深読みであることをお断りしておきます。)
①苦しいこと、辛いことも無駄ではなかったとわかる日が、きっと来る。その苦しみは、君が新しく生まれるためのものだから。だから「生きていても仕方ない」なんて言わないでほしい。
②人は、生まれた後でも新しく生まれることができる。赤ちゃんが泣いて生まれてきたように、君が、今、泣いているのも、きっと、君が生まれるためなんだ。
③君が生まれた時、そばに君の誕生を喜び、世話をしてくれ人がいたことを忘れないでほしい。君は、愛されて生まれて来たんだ。もし、君が「そんなことない」と言うのなら、私が言うよ。何回でも。「生まれてくれてWelcome」ってね。
④君は、きっと、もうとっくに愛を知っているはずだ。だから、今は、誰かにすがりたい気持ちでも、きっといつか、誰かを守りたい気持ちになれるさ。
「誕生」というと、普通は、この世に生まれてきた時の「誕生」の話になりますが、中島みゆきさんの「誕生」では、生まれた後の「誕生」が語られています。
15 年ほど前、各地のハンセン病療養所に多数の中絶胎児の標本が保存されていたことがわかり、大きな問題になりました。旧優生保護法の下で人工中絶や断種手術が行われたのでした。その当時、NHKスペシャル(「にほんの家族の肖像」第1回、2007年5月27日放送)で、ハンセン病療養所の人たちの生活が取り上げられました。その中に上野正子さんご夫妻がいました。
正子さんが結婚するとき、同じハンセン病である夫に断種手術が施されました。事後にそのことを知らされた正子さんは、その時点で「子どものいる家庭」というかけがえのない自分の夢が打ち砕かれ、結婚生活60年の間、ずっと夫に対してわだかまりを持ち続けてきました。正子さんは、番組の中で、自分の結婚について、「かえすがえすも、残念なことだった」と語りました。
番組取材中、正子さんの夫が亡くなり、(取材が始まったとき、夫は、脳梗塞で寝たきりになっていました。)その半年後に、番組は、再び、正子さんを取材しました。そのときの、正子さんは、自分の結婚について、驚くべきことを語りました。
「残念ではあったけど、悔いのない結婚とは、こういうものだと思いますよ。」
そして、ナレーションが流れました。
「この後、上野さんは、夫へのわだかまりを語ることはありませんでした。」
夫を亡くしてからの半年間に、いったい、正子さんに何が起こったのでしょうか。
私たちは、大切な人を亡くした後、生前よりも、もっと深くその人を知る体験をします。(生前は、その人の、逐一のリアルな言動に注意が奪われ、逆にその人の本当の姿が見えにくいのかもしれません。)
正子さんも、夫を亡くしてから、もっと深く夫を知る体験をしたのではないかと思います。その結果、「いつも私を励まし続けてくれた、自分に優しかった人」として、夫の愛の深さを知ることができたのだろうと思います。
「悔いのない結婚とは、こういうものだと思いますよ。」と、晴れ晴れと語る正子さんは、きっと新しく生まれた正子さんなのだと思います。
神様は、人生の最後の最後まで、仕合わせな「誕生」のチャンスを、私たちに与えてくださるようです。
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